重低音で恋にオトして(11)

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BL

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10話

 結局、数回しか訪れることのなかった響一のマンションだったが、敬士は、道を覚えるのは得意だった。

 大学近くに居を構えている彼の家までは離れている。電車に乗っている間も、そわそわして座っていられなかった。

 エレベーターが五階に到着するまでも落ち着かず、扉が開いた瞬間、人がいるかもしれないという考えがすっぽ抜け、走り出す。幸い、誰もいなかった。

 部屋の前に辿り着き、ピンポンとチャイムを鳴らす。イタズラか嫌がらせと思われそうなくらい、激しく連打した。

 隣の部屋の住人が出てくる前に、早く出てきてくれ。頼む。

 敬士の願いが天に通じたかは定かではないが、ガチャリと鍵が開く音がしたのは、目の前の扉だった。

「ちょっと、敬士くん。どうかしたの……?」

 インターフォン越しではなく、直でドアを開けて対応することにしたのは、カメラで自分だということがわかっていたからだろう。

 開口一番、名前を呼んだ響一の首根っこをぐっと掴んで、敬士は近所迷惑も省みず、叫んだ。

「顔出し配信なんて、するな!」

「はい?」

「響一の素顔知ってる奴、これ以上いらない! 全部オレだけにして!」

 心の中に生まれた独占欲を全部ぶつけて、それでも足りなくて、敬士は響一の胸元めがけてアタックする。

 苦しげな呻き声が頭上から聞こえたが、絶対に撮影場所には行かせるもんか。背中に腕を回し、ぎゅうぎゅうに締めつける。

「響一~? 何してんの? リハするって言ってんじゃん」

 完全なる修羅場に、闖入者あり。

 和音の声に、敬士はようやく我に返り、響一を見上げる。訳がわからないという間の抜けた表情であっても、彼はイケメンだ。想いを自覚したせいか、恥ずかしくなって頬が熱くなった。

「いやマジで何してんの?」

 くぐもった和音の声に、「違うんです!」と、言い訳しようとした敬士だったが、彼女の姿を見て、「ぎゃーっ」と、悲鳴を上げた。

 そこにいたのはサバサバしっかり系姉御肌の美女ではなく、怪人・豚マスクだったのだから。

 人工的な肌色のゴム製マスクが、薄汚れているのがリアルで不気味だ。敬士は咄嗟に、響一の陰に隠れた。服の裾をぎゅっと握りしめ、恐る恐る覗き込む。響一が振り返り、微かに微笑んだ。

「和音。マスクマスク」

「あ」

 忘れてたわあ、と明るく言ってのけてから、和音はマスクを取り、あっけらかんと笑った。

「ごめんごめん。で、何? 修羅場?」

 響一が頷くより先に、彼の背後からひょこりと顔を出して、

「今日の生配信、響一に顔出しさせないでください!」

 と、懇願する。

 目をパチパチ瞬かせて、どうにか事態に得心がいった和音は、にやりと笑い、響一に意味ありげな目を向けた。

「ふーん。どうりで、あれだけ拒否ってたBLドラマやるって言い出すわけだ」

「和音!」

 怒気をはらんだ声。けれど、敬士をちらちら見てくる目元は赤く、羞恥に染まっているようにも見える。

 二人のやりとりについていけず、目を白黒させる敬士に、和音は自身の胸を強く叩いた。

「大丈夫よ」

 と。

12話

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