二週間の恋人(21)

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20話

 言葉通りに、俊平は実習生としての距離感に戻った。言い合いをした後の極端なものではなくて、数学準備室に立ち寄って、他愛のない話をすることもある。

 それが正しい関係性だとは、わかっている。だが、要は、俊平が一歩踏み込んでくるのを、いつも通り期待してしまった。すっと引いていく俊平は、物足りなくて、イライラした。

 二週間で、ずいぶんと慣らされたものだ。嫌になる。実習生用の教室へと戻る俊平を見送って、要は一人になった。

 ぼんやりと、外を眺める。どこかのクラスが、外で体育の授業をしているらしく、わぁわぁと声が聞こえてくる。

「溜息をつくと、幸せが逃げていきますよ。瀬川先生」

 突然背後から声をかけられて、振り返る。驚きのあまりに声は出ないし、勢いがついて、手をぶつけた。

 北見校長だった。失礼、ノックをしたけれど返事がなくてね、と彼は笑っている。

「いえ。昔は、北見先生の城だった場所ですから……」

 要は椅子を勧めるが、彼はすぐにお暇するから、と断った。

 校長は、ただ要を見つめていた。これこそ、慈愛の眼差しである。

「この間、私は、元に戻ったみたいだと、瀬川先生に言ったね」

 と、静かに切り出した。全校朝礼のとき、どれだけ生徒たちが集中力を欠いていても、この調子で流れるように話を始めると、落ち着いた空気になるのだ。要もまた、彼の話に集中して、耳を傾けた。

 元に戻ったという言葉を、要は、陽介のいた高校時代に戻ったのだと解釈していた。俊平が陽介に似ていたから、彼に釣られたのだ、と。

 だが、校長は目を和らげて、続けた。

「でも、それは違ったみたいだ。君は、戻ったんじゃない。変わったんだ。先に進むことを、選び取れるようになったんだね」

「え……?」

 校長は、要の人生の大部分を知っている。陽介とじゃれていた青春の日々も、陽介を失って、引きこもっていた暗闇も、すべて。

 母校で働くようになってからも、校長の目には、要は一歩も進まずに、停滞しているように見えていたのだ。そして彼は、心配しながらも、過干渉になることなく、見守ってくれた。

「未来を、選び取る……」

 時間を、自分の前を流れ去っていくものとしてではなく、舵を取り、乗り越えていけるものとして捉えることが、今の自分にならば、できるのだろうか。

 校長はきっと、要がどんな選択をしても、今と同じように微笑んで、言葉をかけてくれるだろう。そう思った。

22話

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