青春

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短編小説

大根抜きの女王

五月の連休が明けても、時折肌寒い日がある。名残の桜がひらりと舞い落ちるのを後目に、俺は校門を急ぎ足で一歩踏み出す。 「川崎かわさき、お前、本当に部活やらなくていいのか?」  中学の部活は必修じゃない。転校以来、先生がしつこく誘ってくるのは、...
短編小説

私のお母さん

産みの親と育ての親が違うのは、まれによくある。  積極的には言わないけれど、親密になるにつれて、打ち明け話をするようになる。一般家庭の子には同情され、腫れ物扱いされる場合もあるけれど、「実は……」と、お互いの秘密を共有する友人もいた。  人...
短編小説

耳たぶの献身

盆の季節、田舎の居酒屋は繁盛している。「しゃーせー!」と、若いアルバイト店員の威勢のいい声は、半ばやけくそに聞こえた。  広い座敷を一間借り切っての高校の同窓会は、年に一、二回開催されているが、私が出席するのは、久しぶりのことだった。 「芙...
短編小説

バイバイバグ

今日も散々だった。  夜になってもちっとも涼しくならない中、ふぅふぅと息を切らして坂道を上る。デブではないが、年齢のわりにだるんとした身体は、上り坂にすぐにくじけてしまう。  家賃の兼ね合いで選んだ家だが、もっと不動産屋で粘るべきだった。 ...
短編小説

ウィンターアゲイン、アンドアゲイン

冬の寒さは、人から口数を奪う。だから、北の人間ほど、無口になるんじゃなかったか。  函館空港に降り立った俺の周りには、浮かれた連中しかいなかった。  雪を見て、はしゃいでいる子ども、追う父親。母親は赤ん坊をあやしながら、スーツケースにもたれ...
短編小説

寒空にフラペチーノ

別に後ろめたいことをしているわけじゃない。なのに、目当ての階のボタンを押すのには、勇気が必要だった。  すまし顔をして、一階から順に上がっていく階数表示をじっと見る。四階で降りたのは私ひとりだけで、ホッとした。  これ以上、「他の会社に用が...
短編小説

旬を過ぎたら、

「旅行に行かないか?」  付き合いで見始めた映画が案外面白く、夢中になっていたせいで、反応が一瞬遅れた。 「え」  トシキの顔をまじまじと見る。彼はまっすぐにテレビを見ていて、一見すると、映像にのめり込んでいる様子だ。  けれど、本当は違う...
短編小説

ヘミオラのウサギ

机の天板を雑巾で拭くと、ガタゴトと音を立てて、ぐらつくものがある。授業中にノートを取っているときに、気にならないものだろうか。  確かこの席は、学年一位の内藤ないとうくんが座っている。弘法筆を選ばず、というやつなのかもしれない。秀才は、どん...
ホラー

前へならえ

運動部の新入生なんて、だいたい先輩面をしたい二年生から、体よく使われるに相場が決まっている。  どうでもいい自慢話を「さすがっすね」と持ち上げなければならない。あるいは、ストレス解消の的にされたりする。  特に、レギュラー争いに一ミリも関わ...
短編小説

ひと月遅れのアドベント

黒板の横にかけられた日めくりカレンダーも、だいぶ薄くなった。日直でもないのに、今月になってから、毎朝毎朝破り捨てた甲斐があるというもの。  明日から十二月。誰もが心躍る、あのシーズンの到来。 「あ、おはよう!」 「はよ……今日も無駄に元気だ...
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