短編小説 繋がる円盤 「UFOとか、興味はない?」 肩をツンツンされながら話しかけられた。人違いだと思いたかった。意味がわからずに、たっぷり三十秒は沈黙し、大地だいちは男の顔をまじまじと見つめてしまう。 鑑賞に堪える顔なのが、いっそうっとうしい。ぴかぴか光る... 2024.10.22 短編小説青春
短編小説 大根抜きの女王 五月の連休が明けても、時折肌寒い日がある。名残の桜がひらりと舞い落ちるのを後目に、俺は校門を急ぎ足で一歩踏み出す。 「川崎かわさき、お前、本当に部活やらなくていいのか?」 中学の部活は必修じゃない。転校以来、先生がしつこく誘ってくるのは、... 2024.02.19 短編小説青春
短編小説 私のお母さん 産みの親と育ての親が違うのは、まれによくある。 積極的には言わないけれど、親密になるにつれて、打ち明け話をするようになる。一般家庭の子には同情され、腫れ物扱いされる場合もあるけれど、「実は……」と、お互いの秘密を共有する友人もいた。 人... 2023.12.20 短編小説青春
短編小説 耳たぶの献身 盆の季節、田舎の居酒屋は繁盛している。「しゃーせー!」と、若いアルバイト店員の威勢のいい声は、半ばやけくそに聞こえた。 広い座敷を一間借り切っての高校の同窓会は、年に一、二回開催されているが、私が出席するのは、久しぶりのことだった。 「芙... 2023.10.20 短編小説青春
短編小説 バイバイバグ 今日も散々だった。 夜になってもちっとも涼しくならない中、ふぅふぅと息を切らして坂道を上る。デブではないが、年齢のわりにだるんとした身体は、上り坂にすぐにくじけてしまう。 家賃の兼ね合いで選んだ家だが、もっと不動産屋で粘るべきだった。 ... 2023.08.04 短編小説青春
短編小説 ウィンターアゲイン、アンドアゲイン 冬の寒さは、人から口数を奪う。だから、北の人間ほど、無口になるんじゃなかったか。 函館空港に降り立った俺の周りには、浮かれた連中しかいなかった。 雪を見て、はしゃいでいる子ども、追う父親。母親は赤ん坊をあやしながら、スーツケースにもたれ... 2023.06.02 短編小説青春
短編小説 寒空にフラペチーノ 別に後ろめたいことをしているわけじゃない。なのに、目当ての階のボタンを押すのには、勇気が必要だった。 すまし顔をして、一階から順に上がっていく階数表示をじっと見る。四階で降りたのは私ひとりだけで、ホッとした。 これ以上、「他の会社に用が... 2023.02.03 短編小説青春
短編小説 旬を過ぎたら、 「旅行に行かないか?」 付き合いで見始めた映画が案外面白く、夢中になっていたせいで、反応が一瞬遅れた。 「え」 トシキの顔をまじまじと見る。彼はまっすぐにテレビを見ていて、一見すると、映像にのめり込んでいる様子だ。 けれど、本当は違う... 2022.12.02 短編小説青春
短編小説 ヘミオラのウサギ 机の天板を雑巾で拭くと、ガタゴトと音を立てて、ぐらつくものがある。授業中にノートを取っているときに、気にならないものだろうか。 確かこの席は、学年一位の内藤ないとうくんが座っている。弘法筆を選ばず、というやつなのかもしれない。秀才は、どん... 2022.10.07 短編小説青春
ホラー 前へならえ 運動部の新入生なんて、だいたい先輩面をしたい二年生から、体よく使われるに相場が決まっている。 どうでもいい自慢話を「さすがっすね」と持ち上げなければならない。あるいは、ストレス解消の的にされたりする。 特に、レギュラー争いに一ミリも関わ... 2022.04.01 ホラー短編小説青春