ホラー 前へならえ 運動部の新入生なんて、だいたい先輩面をしたい二年生から、体よく使われるに相場が決まっている。 どうでもいい自慢話を「さすがっすね」と持ち上げなければならない。あるいは、ストレス解消の的にされたりする。 特に、レギ... 2022.04.01 ホラー短編小説青春
短編小説 ひと月遅れのアドベント 黒板の横にかけられた日めくりカレンダーも、だいぶ薄くなった。日直でもないのに、今月になってから、毎朝毎朝破り捨てた甲斐があるというもの。 明日から十二月。誰もが心躍る、あのシーズンの到来。 「あ、おはよう!」 「はよ... 2021.12.04 短編小説青春
短編小説 アイのはなし ジャングルジムにのぼると、木の枝が近かった。おそらくは桜だろう。東京よりも暖かいこの地域では、三月中にすべて散って、すでに若葉がぴょこぴょこと顔を出している。柔らかそうなそれに手を伸ばそうと身を乗り出すほど、ぼくは子どもじゃない... 2021.10.01 短編小説青春
短編小説 JCの半分は妄想でできている 中学生になって、初めての授業参観日だった。来なくていいよ。朝出かけるときに、寝ぼけ眼のおいちゃんにはそう言ったけれど、来てくれたのは嬉しかった。ママは仕事が忙しくて、なかなか来られなかったから。 たとえ襟のゆるいTシャツにジーパ... 2021.08.06 短編小説青春
短編小説 映えない友達 『のぞみ。しばらくおばあちゃんちで暮らしてみない?』 そうママが言ったとき、てっきり父方の祖父母の家だと思った。鎌倉といえば和の街。渋谷原宿を根城にしている私とは、一見ミスマッチ。でもだからこそ、映える写真がたくさん撮れそうだ。 ... 2021.06.05 短編小説青春
短編小説 梅雨に彩花 大きく武骨な手から、丁寧な文字――読みやすい、とは言わない。癖はない。だが、ちまちました文字は、老眼鏡にクラスチェンジしたと噂の担任には、読みにくいに違いない――が生まれるのは、興味深い。 この年になってやることはないけ... 2021.04.28 短編小説青春
短編小説 海を泳ぐ月 廊下側の後ろから二番目の席は、ほぼ対角線上にある、窓際の一番前にいる彼を観察しやすくて、私のお気に入りの席だ。 「森もりー。森海かいー。ここの訳」 その後三回、先生は彼の名前を呼んだ。ようやく自分があてられているこ... 2020.11.06 短編小説青春
短編小説 拝啓 ゴッドファーザー様 飛行機を降りた瞬間、熱気が襲ってきた。 「あ……っつーい!」 誰よもう、北海道は涼しいなんて言った奴は! と憤慨しつつ、日よけのカーディガンを脱ぐ。機内アナウンスで「現地の気温は現在二十六度、予想最高気温は三十一度... 2020.11.03 短編小説青春
短編小説 月色果実 その瞬間、私は風になっていた。 そう表現すれば格好いいが、夕飯の支度をしているはずの母が、たまたまタイミング悪く、台所から出てきた。トイレに行くのに、玄関前でばったり出くわした。 「あら、おかえり」 帰宅し... 2020.10.29 短編小説青春
短編小説 モザイクタイルの指先 へっくち、と亜里沙ありさはくしゃみをした。思わず赤面して、両手で口から鼻までを隠した。手袋の毛糸がチクチクする。 ミトン型の手袋は、中学二年生にしては幼いデザインだ。じっと掌を見つめていると、次第に子供でしかない自分に腹が立って... 2020.10.06 短編小説青春