青春

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短編小説

アイのはなし

 ジャングルジムにのぼると、木の枝が近かった。おそらくは桜だろう。東京よりも暖かいこの地域では、三月中にすべて散って、すでに若葉がぴょこぴょこと顔を出している。柔らかそうなそれに手を伸ばそうと身を乗り出すほど、ぼくは子どもじゃない...
短編小説

JCの半分は妄想でできている

 中学生になって、初めての授業参観日だった。来なくていいよ。朝出かけるときに、寝ぼけ眼のおいちゃんにはそう言ったけれど、来てくれたのは嬉しかった。ママは仕事が忙しくて、なかなか来られなかったから。  たとえ襟のゆるいTシャツにジーパ...
短編小説

映えない友達

『のぞみ。しばらくおばあちゃんちで暮らしてみない?』  そうママが言ったとき、てっきり父方の祖父母の家だと思った。鎌倉といえば和の街。渋谷原宿を根城にしている私とは、一見ミスマッチ。でもだからこそ、映える写真がたくさん撮れそうだ。 ...
短編小説

梅雨に彩花

 大きく武骨な手から、丁寧な文字――読みやすい、とは言わない。癖はない。だが、ちまちました文字は、老眼鏡にクラスチェンジしたと噂の担任には、読みにくいに違いない――が生まれるのは、興味深い。  この年になってやることはないけ...
短編小説

海を泳ぐ月

 廊下側の後ろから二番目の席は、ほぼ対角線上にある、窓際の一番前にいる彼を観察しやすくて、私のお気に入りの席だ。 「森もりー。森海かいー。ここの訳」  その後三回、先生は彼の名前を呼んだ。ようやく自分があてられているこ...
短編小説

拝啓 ゴッドファーザー様

 飛行機を降りた瞬間、熱気が襲ってきた。 「あ……っつーい!」  誰よもう、北海道は涼しいなんて言った奴は! と憤慨しつつ、日よけのカーディガンを脱ぐ。機内アナウンスで「現地の気温は現在二十六度、予想最高気温は三十一度...
短編小説

月色果実

 その瞬間、私は風になっていた。  そう表現すれば格好いいが、夕飯の支度をしているはずの母が、たまたまタイミング悪く、台所から出てきた。トイレに行くのに、玄関前でばったり出くわした。 「あら、おかえり」  帰宅し...
短編小説

モザイクタイルの指先

 へっくち、と亜里沙ありさはくしゃみをした。思わず赤面して、両手で口から鼻までを隠した。手袋の毛糸がチクチクする。  ミトン型の手袋は、中学二年生にしては幼いデザインだ。じっと掌を見つめていると、次第に子供でしかない自分に腹が立って...
短編小説

天使と羊飼い

「他に何か連絡事項のある人は?」  日直の司会によって帰りのホームルームは進んでいく。しかし、誰一人として――ひょっとすると、担任でさえ――まともに聞いていない。  高校に入学して、早ひと月が経とうとしている。最初はど...
短編小説

空似の義兄

 きっかけは、テツヤ(あるいはナオキ、だったかもしれない)の一言だった。  十年以上経った今でも、幸雄ゆきおは鮮明に覚えている。 『えっ、お前らって、双子じゃねぇの!?』  彼は、幸雄と康之やすゆきの顔を交互に見た。 ...
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