青春

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短編小説

寒空にフラペチーノ

 別に後ろめたいことをしているわけじゃない。なのに、目当ての階のボタンを押すのには、勇気が必要だった。  すまし顔をして、一階から順に上がっていく階数表示をじっと見る。四階で降りたのは私ひとりだけで、ホッとした。  こ...
短編小説

旬を過ぎたら、

「旅行に行かないか?」  付き合いで見始めた映画が案外面白く、夢中になっていたせいで、反応が一瞬遅れた。 「え」  トシキの顔をまじまじと見る。彼はまっすぐにテレビを見ていて、一見すると、映像にのめり込んでいる様子だ。 ...
短編小説

ヘミオラのウサギ

 机の天板を雑巾で拭くと、ガタゴトと音を立てて、ぐらつくものがある。授業中にノートを取っているときに、気にならないものだろうか。  確かこの席は、学年一位の内藤ないとうくんが座っている。弘法筆を選ばず、というやつなのかもしれ...
短編小説

初恋をきれいにあきらめる方法

 外は晴天、夏の盛り。家から出るのも億劫になる気温だが、夏休みの空気感が、「どこかへ行かなければ」と、重圧をかけてくるような日だ。  エアコンから送り出される人工的な風に乗って、自分の部屋とは違う香りが拡散する。柔軟剤だとか...
ホラー

前へならえ

 運動部の新入生なんて、だいたい先輩面をしたい二年生から、体よく使われるに相場が決まっている。  どうでもいい自慢話を「さすがっすね」と持ち上げなければならない。あるいは、ストレス解消の的にされたりする。  特に、レギ...
短編小説

ひと月遅れのアドベント

 黒板の横にかけられた日めくりカレンダーも、だいぶ薄くなった。日直でもないのに、今月になってから、毎朝毎朝破り捨てた甲斐があるというもの。  明日から十二月。誰もが心躍る、あのシーズンの到来。 「あ、おはよう!」 「はよ...
短編小説

アイのはなし

 ジャングルジムにのぼると、木の枝が近かった。おそらくは桜だろう。東京よりも暖かいこの地域では、三月中にすべて散って、すでに若葉がぴょこぴょこと顔を出している。柔らかそうなそれに手を伸ばそうと身を乗り出すほど、ぼくは子どもじゃない...
短編小説

JCの半分は妄想でできている

 中学生になって、初めての授業参観日だった。来なくていいよ。朝出かけるときに、寝ぼけ眼のおいちゃんにはそう言ったけれど、来てくれたのは嬉しかった。ママは仕事が忙しくて、なかなか来られなかったから。  たとえ襟のゆるいTシャツにジーパ...
短編小説

映えない友達

『のぞみ。しばらくおばあちゃんちで暮らしてみない?』  そうママが言ったとき、てっきり父方の祖父母の家だと思った。鎌倉といえば和の街。渋谷原宿を根城にしている私とは、一見ミスマッチ。でもだからこそ、映える写真がたくさん撮れそうだ。 ...
短編小説

梅雨に彩花

 大きく武骨な手から、丁寧な文字――読みやすい、とは言わない。癖はない。だが、ちまちました文字は、老眼鏡にクラスチェンジしたと噂の担任には、読みにくいに違いない――が生まれるのは、興味深い。  この年になってやることはないけ...
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