孤独な竜はとこしえの緑に守られる(47)

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46話

 何度もぼんやりすることに、痺れを切らした王女は、「もういい!」と、機嫌を損ねた。

「一号じゃなくて、×××と遊ぶわ」

 王女が呼んだのは、十日ほど前に拾った白い蛇であった。王宮の庭に現れたときには怪我をしていたが、今はすっかり完治していた。野生の動物の治癒力は、めざましいものがある。

 子供の腕ほどもある太さの蛇にも怖がることなく、赤い瞳を見つめて、「遊びましょ」と、王女は声をかける。蛇も彼女の言葉を理解しているのか、チロチロと細い舌を出し、付き従う。

 仮に保護しただけの蛇にすら名前があるのに、どうして俺たちには。

 一号は先導する王女と白蛇についていく。

「あなたのお気に入りの場所を教えて」

 なかなかにお転婆なお姫様である。行き先を蛇に任せ、探検しようというのである。危険なことだけはさせてはならない。一号は、いざというときには身を挺して庇うことを誓う。

 蛇は自由気ままに見えて、歩幅の狭い幼女、彼女に合わせて進むほかない従者のことを、時折這い進むのを止めて、待っていた。まるで人間のようだ。

「あなた賢いのね」

 上へ行ったり下へ行ったり、結局疲れて一号の腕に抱き上げられることになった王女は、「一号より役に立つわ!」と、生意気なことを言った。ただの子供だったら、この場で落としているところである。

 何も言うことができない一号に、「ふふん」と勝ち誇った笑みを浮かべた王女、そして物言わぬ蛇の一行は、蛇の生まれ故郷であろう、敷地内の森へと足を踏み入れた。

 ここは禁足地ではないのか。一号は不安になる。

 王家の者以外が足を踏み入れると、呪われる。そんな噂のある場所は、いくらでもある。城の外といえば、庭師の丹精した庭園しか知らない王女は、体力が回復したこともあり、今度は自分の足で歩くと言ってきかなかった。

「転ばないように、気をつけてください」

「うるさいわね! そんな間抜けじゃないわ!」

 つん、と言ったそばから木の根につまずきそうになっている王女に、やれやれと手を差し出すと、彼女はおずおずと握ってきた。根は素直なのである。

「×××はどこへ行こうとしているのかしら?」

 先程から、何度か彼女は白蛇の名前を呼んでいるのだが、一号には聞き取ることができない。名づけをした場面にも居合わせているので、「なんていう名前でしたっけ」と尋ねるのも不敬にあたる。

 蛇が目的を持ってどこかへ連れていこうとしていることだけは、一号にもわかった。王女の覚束ない足下に注意しつつ、蛇の後を追う。土と苔の地面の中、白い色はとても目立った。見失うことはなさそうだ。

 どのくらい歩いただろうか。王女はぐずることなく、よく頑張った。蛇が動きを止めた場所を見て、彼女は「わぁ」と声を上げ、一号の手を離し、駆け寄った。

 大きな広葉樹の森の中、そこだけ太陽のための舞台だというように、開けて木漏れ日が差し込んでいる。ふわふわキラキラと舞っているのは、空気に混じる塵に違いないが、王女が妖精だというのなら、そうに違いない。きゃっきゃ、と声を上げてはしゃぐ王女を眺めつつ、一号はちょうどいい塩梅に存在する切り株を椅子代わりに、腰かけた。

48話

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