孤独な竜はとこしえの緑に守られる(48)

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47話

いい場所だ。今度は王子と二号も連れてこよう。

「あら、ダメよ一号。ここはわたしと、×××と、一号の秘密の場所にするの!」

 王女の可愛らしい我が儘に、一号は頷くほかなかった。

 ここでしばらく休んでから、城に帰ろう。あまり遅くなると、二号や乳母たちが心配する。

「お前はここでお別れか? それとも一緒に城に帰るのか?」

 王女を見習って、とぐろを巻いている白蛇に話しかけてみるも、反応はなかった。どうやら蛇は、自分を一号よりも上に位置づけているらしい。卑しい者の言葉を聞く必要はないというように、目を閉じていた。 

 機嫌が降下しても、一号が八つ当たりできる相手はいない。仕方なくぶちぶちと生えている草を抜き、視界の端に王女をしっかりと映しておく。

 彼女が疲れてきただろう頃合いを見計らって、一号は声をかけた。

「殿下。そろそろ帰りましょう。お兄様もお待ちですよ」

「はぁい」

 おそらく帰りは、抱き上げて帰らなければならない。もうすでに目はとろりと眠そうだ。立ち上がった一号に駆け寄ってきた王女は、案の定無言で抱きついてくる。

 こういうところはやはり、年相応で可愛い。

 一号が破顔しつつ、王女を抱き上げようとした、まさにそのときであった。

 白蛇が目を開け、舌を出したその瞬間、地が揺れ、轟音が耳をつんざいた。王女の耳を塞ぐのは間に合わず、突然のことに彼女は驚き、「なにっ? なんなの!?」と、恐慌状態に陥っている。

 落ち着いて、と王女の背を撫でていると、ふと陰ったので、空を見上げる。

「!」

 白銀の鱗に覆われた身体が、上空に浮いていた。ずっととどまっているように見えたのは錯覚で、あまりにも体長が長いため、空を隠している時間が長かっただけだ。猛烈な勢いで、その生き物はまっすぐに飛んでいく。

 目的地は、城に違いない。あそこには、竜も多くいる。

 あの恐ろしい生き物は、おそらく竜たちの王。人間に捕らえられた仲間たちを、開放するために襲来したのだ。

 牧場には、王子たちがいる。合流し、我が身に変えても、国王一家を逃がさなければならない。

 一号は王女を担ぎ上げ、城への道を引き返そうとした。

「シャー!」

「!」

 だが、蛇が行く手を阻んだ。踏みつけてでも帰らなければならないのに、一号はできなかった。

「どいてくれ! 帰らなければ……」

「シャー」

 赤い目が、じっと一号を見つめてくる。蛇の言葉なんてわかるはずがないのに、心に伝わってくるのは説得しようとする意志。

「あきらめろと、言うのか?」

 王城にいるのは、二号や王子殿下、国王夫妻だけじゃない。一号たちにも優しくしてくれる料理長や、二号が淡い想いを抱く女官。一号が今まで関わってきた人たちは皆、あの場所にいるのだ。

「俺と姫様以外、全員見殺しにしろというのか!?」

 白蛇は頷いた。一号の腕に抱かれた王女は、事態の深刻さに怯え、声を上げて泣いた。宥めることができないほど、一号は怒りに震えていた。

『守る者よ』

 声が、心に直接響く。白蛇のものであろう。男とも女ともつかぬ、深く低い声に、思わず跪きそうになって、一号は膝を叩いて堪える。

 そうだ。守る者だ。俺の身体は他より頑丈で、小さな子供を抱えて、楯になることしかできない。反乱を起こした竜を迎撃するのは、兵士と二号の役目だ。

『力を望むか?』

 それでも俺は。俺だって、戦う術さえあれば。

 一号は王女を一度下ろし、蛇に近づいた。震える手を伸ばすと、ぬるりと身体をくねらせて、絡みついて登ってくる。緊張に息を詰めていると、蛇はやがて、一号の肩で止まった。

『お前は誰を、その力で守らんとす?』

「俺は……」

 俺の愛する者を、この手で。

 ――ル……リル。

 耳の奥で木霊するのは、夢の中で自分を愛した白銀の男。いや、どちらが夢なのか。

 木漏れ日溢れる森は崩れ落ち、一号の前からは王女の姿も消える。

 ――ル、ベリル。ベリル、ベリル。私の唯一。

 ああ、愛してる。

 ……シルヴェステル。

49話

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