断頭台の友よ(68)

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十字架 ライト文芸

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67話

「クリスティンちゃんは、いくつ?」

「十歳」

 それにしては、幼い。幼すぎる。閉じた世界で過ごしているとはいえ、五歳か六歳の幼児でも、もう少し分別がある。特に都会の子供ならば。

「クリスティンちゃんは、アリスちゃんのお友達かな?」

 死んだ少女の名前を出すと、クリスティンはまた、ぼんやりし始めた。クリスティン、と名を呼び触れようとしたところで、「何をしているんです!?」と、ヒステリックな叫び声とともに、クリスティンが女性の腕に抱き留められた。

「私は捜査官です。第一発見者である彼女と、少し話を」

 職員の女性は、少し分け与えてあげればいいのにと思うほど、子供たちとは対照的であった。枯れ枝のようなクリスティンは、すっぽりと彼女の肉に覆われて見えなくなってしまう。

「相手は子供ですよ!? やめてください!」

 まだ何も、核心に迫ることは聞けていない。やれやれとクレマンは溜息をつき、「ならば、他に誰か話ができる人を。院長先生にお会いしたいのですが」と申し出た。孤児院の責任者に会いたいというのは正当な申し出であり、クリスティンとは異なり、いい大人だ。東の孤児院は初老の女性であったが、こちらは確か、中年男性であったと記憶している。

「い、院長先生はあなた方みたいな野蛮な人とはお会いにならないわ!」

 なぜか慌てて立ち去ろうとする女性に、クレマンは眉根を寄せた。ほら、行くわよ、と促されるも、クリスティンは動こうとしない。その目は中空を漂っているようだが、クレマンは自分を見ていると直感した。

「クリスティンちゃん。おじさんに、何か言いたいことがあるかな?」

 最後の賭けだった。クレマンは彼女と彼女のぬいぐるみに交互に視線を向けた。クリスティンの主体がどちらなのか、わからないからだ。

「……て」

「クリスティン?」

「たすけて。クリスティン、たすけて」

 救いを求める言葉に疑問を投げかける間もなく、女性はクリスティンの身体を抱え上げ、大股に逃げていった。

 どうもおかしい。子供が犠牲になっているのだ。子供への聞き取り調査は断ったとしても、院長を始め職員への聞き取りは積極的に協力してもらわなければ、事件の早期解決は望めない。

 クレマンは踵を返し、他の職員を尋問している同僚たちに結果を聞きに行こうとした。

「クレマン? おーい、クレマン!」

 名を大声で呼ばれ、クレマンは声の主を探した。よく知る声である。聞き間違いではない。

69話

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