迷子のウサギ?(15)

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14話

 ウサオの秘密の外出に、俊は気が付いていなかった。ずっと寝室に籠ってレポートを作っていたらしかった。と、いうのも次の日珍しく寝坊してきた俊の目が赤くなっており、完全に寝不足を露呈していたからだ。

「……朝飯、食える?」

「いい。いらない。食欲ない。時間もない」

 せめてホットミルクだけでも飲んで、とウサオが準備している横で、俊は昨日徹夜で書きあげたらしいレポートをチェックしていた。チェック、とはいってもぼんやりと眺めているに過ぎなかった。

「寝たのか?」

「……多少は」

 電子レンジですぐにホットミルクはできあがる。糖分を取ってほしかったので、はちみつをとろりと垂らす。ついでに食べてもらえるかどうかはわからないが、オレンジも出した。

 俊はオレンジを一瞥するが、手は出さなかった。ホットミルクを「あっち」と言いながらも時間をかけずに飲み干した。ごちそうさま、もそこそこに俊は身支度を整えて大学へ行く。その間ほとんど視線がかち合わないことに、ウサオは落胆していた。

 何か悪いことをしただろうか。昨日の夕食のときから何かおかしい。不安で胸が詰まる。俊が嫌だ、もうウサオと実習などしたくない、と言えば同居生活は解消されるだろう。そんなのは嫌だ、とウサオが主張しても、決して聞き入れられない。

「……いってらっしゃーい」

 いつもなら「行ってくる」という一言が返ってくるのだが、今日はそれすらない。はぁ、と溜息をついて、それから首を横に振った。最悪のことは、そうなったときにまた考えればいい。落ち込んでる場合じゃない。そうだろう? 

 自分自身に言い聞かせ、気合いを入れるために、パンッと頬を両手で叩いた。まずは朝食の後片付け、それから掃除をして洗濯をして……それが終わったら何をしよう。そうだ、読みかけの本があったんだっけ……

 思考を巡らし鼻歌を歌いながら食器を洗い、テーブルを拭いているところで大変なことにウサオは気がついた。

「これ……」

 先ほどまで俊が確認をしていたレポートだった。表紙をぺらりとめくると、やはり自分との生活のことが書いてある。それ以上読むのは嫌になって閉じる。

 追いかけよう、と思ったものの、すでに彼が家を出てから四十分は経過している。もう駅について、電車に乗っている頃だろう。間に合わない。それに、明るい時間に外へ出ることに対して、ウサオは躊躇した。

 ――どうしよう。

 これがないと俊は困るだろう。徹夜してまで書いていたということは、レポートは今日が締め切りのはずだ。大学生活を送った記憶はないのだが、レポートを提出しなければ単位がもらえない、というのはドラマや漫画でもよく見るシーンだから、わかる。大学院も同じように考えていいのかはわからないけれど、俊が困る、というのだけはわかる。

 部屋の片隅にある姿見をじっと見た。今はTシャツ姿だけれど、この後上にパーカーを羽織る。その上にコート。そしてニットキャップ。下はスウェットで、ゆるく作られているので尻尾の形はわからない、ということをウサオは確認した。

 大学の最寄り駅までは、急行に乗って十分。いや、それよりもタクシーの方がいいかもしれない。眠ったふりをして俯いていれば、運転手も詮索してこないだろう。俊が生活費を置いている場所も、ウサオは把握していた。

 もしかしたら、いや、もしかしなくても、怒られる。一人で明るいうちに外に出るなんて、と。

 ウサオは天秤にかけた。俊の役に立ちたい気持ちと、怒られたくない気持ち。ウサギの耳がばれてしまう可能性と、隠し通せる可能性。

 外を見る。窓から見える枝は、ほとんど揺れていない。フードが脱げてしまう可能性は、ないだろう。

 意を決して、ウサオは出かける支度をした。昨日の夜中よりも厳重な装備をする。キャップの中でウサギの耳は、縛って潰して、目立たないようにした。尻尾も痛いけれど潰して止めた。

 コートを着てフードを被る。姿見の前で、一回転。大丈夫だ。不審なところはない。堂々としていればいい。

 タクシーの走っている表通りに出るのは不安だから、ウサオは電話を使って――持っていないと不便だろう、と笹川によって買い与えられた安い旧型の携帯電話だ――それもほとんど使っていない――、震える指でタクシーを呼ぶことにした。

16話

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