迷子のウサギ?(29)

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28話

 それまで犬型や猫型のヒューマン・アニマルを預かったことはあったが、初めてのウサギ型との同居に俊ははりきっていた。シロとの生活は何もかもが順調に進んでいた。

 近所にはほかにアニマル・ウォーカーをしている家庭はなかったから、二人で外を歩いていると無遠慮な奇異の視線をぶつけられたことも一度や二度ではない。けれどそんな連中も、シロが「こんにちは」と微笑むとあまりの美しさ、愛らしさに呆けたように口を半開きにして、「こんにちは……」と繰り返すだけの生き物になってしまった。

 シロを連れ歩けるのは俊の自慢だった。誰もが振り返り、異形の美青年に見とれる。シロの素顔――甘えたがりで、世間知らず――を知っているのは自分だけだというのが誇りだった。学校の友人と遊ぶことよりも、シロと遊ぶ方を優先して、俊はやがて学校では孤立するようになっていたが、まったく気にならなかった。

 シロがいればいい。シロと一緒にいられさえすればいい。その想いで両親に、「一年経ってもシロとずっと一緒にいたい」とねだったが、彼らは困ったように、「それはシロ次第だ」と微笑んだ。別れが辛いのは彼らだって同じだということを、俊は経験から知っている。でも決して二人は、無理強いをしないのだ。

 ならば、とシロ本人に「一年経っても僕と一緒にいてくれる?」と尋ねた。シロは驚いたような顔を作った後に、くしゃくしゃにして、「いいの……?」とか細い声で泣いた。泣くほど嬉しいなんて思わなかったものだから、俊はびっくりした。

「な、泣かないでよ!」

「ご、ごめん……俊とずうっと一緒にいられるって考えたら、胸がいっぱいになって……」

 ひっく、ひっくと泣いているシロ。女の武器は涙だ、なんてこの間再放送のドラマで見たけれど、シロの涙よりもきれいな涙など、存在しないだろう。時折母が鏡台から取り出しているネックレスの真珠のようで、シロの美貌を鮮やかに際立たせていた。

 泣いているシロの頭を黙って撫でながら、俊は「大好きだよ、シロ」と言った。今までも何度か告げてきたことだった。どんなヒューマン・アニマルたちも嬉しそうに自分もだ、と同意を示す。シロだって例外ではない。

 ただ今までの友人たちと違ったのは、「どれくらい?」と程度を尋ねてくることが多いことだった。大好きだ、としか言いようがないこの気持ちに、更に、どれほどの大きさの好きなのかを問われても、俊は困惑してしまう。

「パパさんよりも、ママさんよりも、僕のことが好き?」

 悲しそうな、また今にも泣きだしそうな潤んだ目で聞かれて、俊は即答できない。嘘でも「好きだよ」と言うべきなのか迷ったが、両親の「友達に対してと同じように」という言葉が枷となる。大切な友人に対しては正直でいたい。

 その逡巡がシロを疑心暗鬼にさせる。やっぱり僕のことなんか嫌いなんだ、と拗ねる。

「違うよ! 大好きだよ!」

「でも僕が一番だって言ってくれない……」

「一番だよ! 一番大切な、友達だよ!」

 トモダチ、とシロは繰り返して唇を尖らせる。訳がわからない俊に対して、「まぁいいや」と独り言をこぼしてから、シロは笑った。俊の心を乱してやまない、あの微笑みだ。

「……うん、トモダチね。俊と、僕は、ずうっと、トモダチ」

「そうだよ! それでね、ずっと一緒にいたら、家族になれるんだよ」

「家族……それって、俊と僕が結婚するってこと?」

「えっ」

 家族と言うからには兄弟だと思っていた俊は、予想外のシロの問いかけに戸惑った。恐る恐る、そうっと切り出した。

「あのね、シロ。男同士じゃ、結婚はできないんだよ」

 やはりシロは自分より子供だ。幼稚園のときに幼馴染の少年と結婚の約束を交わした記憶はあるが、今やお互いに笑い話というか、黒歴史になっている。そのときの自分と同じくらいの知識しかないのだ。

「僕かシロが女の子でも、ヒューマン・アニマルと結婚できるかどうかわからないし……」

「……そう。俊はまだ子供だから、なんにも知らないんだね。なぁんにも」

 いつもと逆で、シロに頭を撫でられて、俊は「子供扱いするなよ!」と手を振り払った。

「ふふ。だって、子供じゃないか」

 笑みを刻んだままの唇だが、なんだか怖かった。目が笑っていないせいだということに気がついたのは、すべてが終わってからのことだった。

30話

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