可愛い義弟には恋をさせよ(15)

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14話

 とうとう約束の土曜日。

 前日から念入りに唇のケアをして、当日も暇さえあればリップクリームを塗りたくった。もちろん、和嵩からは見えない場所でこっそりと。めちゃくちゃ意識していると悟られたくない。圭一郎は乙女でも生娘でもない。キスくらい、さらりと何でもない顔をしてできる男でありたいものだ。

 夜になって、圭一郎は和嵩を自室に呼び出した。自分のテリトリーに迎え入れたのは、少しでも緊張を和らげるためだったが、自分よりよほど、キスをしたことがない弟の方がやばいのでは、ということに思い当たる。

 ファーストキスを決めるぞ、というデートの前日は、全然眠れなかったという自身の経験を思い出した圭一郎だったが、今更「やっぱりお前の部屋で!」と言い出すのも、格好がつかない。

 圭一郎の部屋にやってきた和嵩は、想像よりもリラックスした顔をしている。サッカー選手のポスターや、昔買ったCDの山、それからすっかりオブジェになってしまっているアコースティックギターを、興味津々といった目でぐるりと見回す。

 好きになった物をとことん突き詰めるオタク気質な弟と違い、圭一郎は流行りモノにすぐに手をつけるタイプで、飽きるのも早い。ギターは学生時代にバイト代を貯めて購入したものだが、まともに弾けるようになったのは、一曲だけだった。今となっては、コードも忘れてしまっている。

 調弦もしていないギターの弦をつま弾く和嵩を、圭一郎は呼んだ。自分の座るベッドをぽすぽすと叩き、隣に座るように指示をする。ぱっと明るい表情を浮かべて、和嵩はいそいそとベッドの上に座った。

 尻と尻の間に、拳二個分の距離がある。近いと取るか遠いと取るかは人次第だろう。恋人ならば、もう一個分詰めてもいいと思うが、兄弟ならば妥当な距離感である。

 ドキドキと高鳴る胸の鼓動をごまかすために、圭一郎は咳ばらいをして、えらそうに振る舞う。

「……では、これから、キスの手本を見せる」

「はい!」

 こういうときは、「ヒューヒュー!」と口笛でも吹いて囃し立ててくれた方が、気が楽になる。だが、和嵩は超がつくほど真面目である。真剣に、圭一郎からキスの極意の伝授を望んでいる。

 兄というのは悲しい生き物だ。可愛がっている弟から、期待に満ちた眼差しを注がれると、どんな無理難題であっても、「兄ちゃんに任せとけ!」と背負い込んでしまうのだから。

 圭一郎はまず、膝の上に置かれた和嵩の手を取った。

「まずは、雰囲気作りが大切だ。こうやって、手を握ったり、肩を触れ合わせたりする」

 指を絡ませると、和嵩のペンだこの硬さに、不意にドキリとする。彼の手なんて、それこそ毎日見ているはすで、ペンだこの存在にも気がついていた。しかし、こうして触れ合うことで、より実感を伴うものに変化する。

 手でこれなら、唇に触れてしまったら、どうなってしまうのか。

 座っているため、十センチの身長差はゼロになっている。圭一郎は、目の前にある和嵩の唇を見つめる。緩く弧を描き、微笑みを浮かべている。形としてしか捉えられないそれが、熱を持った肉体の一部であることを意識したとき、平静でいられる自信はない。

16話

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