二週間の恋人(4)

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3話

 火曜の三時間目は、高校二年、特進科理系の授業だった。使用するプリントの束を、隣にいる背の高い青年は、「持ちますよ」と要の了承も得ずに、取り上げた。

 俺が持つ、と強固に主張するのも大人げないか。要は素直に渡して、礼を言った。

「ああ、ありがとう」

「いいえ。俺が持ちたくて持ってるだけですから」

 向けられる目には好意しか見当たらず、要の心をざわざわと落ち着かなくさせる。困ったものだ。

 昨日の午後は、中学一年のクラスの授業見学をさせた。五月の一回目の定期テストの結果を受けて、習熟度別に二つのクラスに分けている。要が受け持っているのは上のクラスだったが、俊平には下のクラスを見学させた。

「昨日のクラスとは、生徒たちのレベルも違うし、授業の構成もまるで違うから、比較してみてほしい」

「はい」

 特進科の生徒たちには、早いうちから大学進学を意識させている。中学に入学して間もない子供たちとは異なり、内容もハイレベルだし、課題も多く出す。どちらかといえば、俊平が経験してきた塾での授業に近い。

 階段を昇って三階へ。要とて背が低いわけではないが、俊平は五センチ以上、いや、十センチ弱高い位置に頭がある。当然その分足の長さも違って、彼は無理に要の歩幅に合わせている。

 扉を開くと、すでに授業の準備を万端に整えた生徒たちの姿があった。俊平を目だけで促して、教室の後ろに立たせる。都会に暮らす大学生に、子供たちは好奇の視線をちらちらと向けるが、どこか遠慮がちでもある。

 要が教壇に立つと同時に、日直の生徒が「起立!」と声を張った。高校二年ともなれば、号令とともにぴしっと立ち上がることができる。

 その号令とともに、一番後ろに立った俊平は、背筋を伸ばした。要は小さく頷いた。

「礼」

 声を合わせて「よろしくお願いします」と言うのが、この学校での決まりだ。着席、の声とともに生徒たちが座るのを確認して、要は出席を取り始める。今日の欠席はゼロだ。

「今日は後ろに、教育実習の新田俊平先生がいるが、気にせずにいつも通り授業に参加してほしい。そのうち、授業も担当してもらう」

 後ろを見た生徒たちに、俊平は笑顔で会釈した。どうやら表情だけで、俊平は生徒たちの心を掌握してしまったらしい。教室に満ちていた妙な緊張感は、一瞬にして溶けていった。要は咳払いして、子供たちの集中力をこちらに向けさせ、数学Bの教科書を開くように、指示をした。

5話

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