二週間の恋人(3)

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2話

「函館は久しぶりか?」

 軽い雑談の始まりを察して、俊平は表情を明るくした。大きな口を開けて笑い、首肯する。

「サークルとかテストとかで、夏休みもあんまり帰省していなくって。この時期に帰ってこれてほっとしてます。何せ向こうは、梅雨ですから」

「ああ……」

 要にも覚えがある。北海道の中でもこの函館は、「蝦夷梅雨」と呼ばれる雨の多い期間が多少存在するものの、本州の湿度と気温の合わさった不愉快さには、遠く及ばない。

 北海道から上京した人間が悩まされるのが、夏の暑さと梅雨時期の湿っぽさ、それから。

「冬が意外と寒くて困ったな」

「そう! それなんですよ! 俺、東京の冬ってもっとあったかいもんだと思ってました!」

 函館にいるときにはわからない。テレビの天気予報を見ても、冬場の東京の気温は、そこまで低くない。八度とか九度とかあれば、暖かいと思うのが道産子だ。

「家の作りが違うんだよな」

「でも、そういうのって先輩たち誰も教えてくんないんですよね!」

 道内に進学する生徒の方が断然多いうえ、上京した人間は、都会の刺激的な生活ばかり自慢げに話すので、実際に暮らしてみて、初めてその不便さや辛さが身に沁みてわかるのである。

「この時期の北海道はやっぱり、快適だろう」

 要は椅子に座ったまま、外を眺めた。三時間目の授業中、体育の授業でグラウンドを走っているのは、ジャージの色からして、高校一年生だ。

 爽やかな六月の空気、なんていうのは北海道でしか味わえない。慣れない実習で緊張を強いられるであろう俊平が、少しでも心を和らげられるならいいな、と要は思った。

「そうですね。それもあって、母校を実習先に選びました」

 実習校は決して、自分の出身校でなければならないというわけではない。附属高校があれば、そちらでの実習を強く勧められる場合もある。東大附属なんて、どんな優秀な生徒がいるかわからないから、要は絶対にお断りだが、俊平ならば不思議と、うまくやれるような気がした。

 頭がよくて社交的で、爽やかな笑顔が魅力的な青年のことを、嫌う人間なんていない。胸がチリチリと焼けて、要は一度、俯いて目を閉じた。似た人間を見る度に、苦しくなるのは、悪い癖だ。

「あと」

 付け足された言葉に、要は顔を上げた。俊平は目を細めて、要をじっと見つめていた。八歳年上の、初対面の男に対する視線ではない。例えるならば、幼い子供や仔犬に向けるような、慈愛に満ちたもののように、要には感じられた。

 どうしてこんな目で、彼は自分のことを見るのだろう。そもそも、今日会ったばかりなのに。

 疑問を口にする前に、俊平は先に答えを言った。だが、要にはとても納得のいかない回答で、頭が痛くなるだけだった。

4話

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