不幸なフーコ(21)

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ライト文芸

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20話

 花火が打ち上がるまで、あと一時間半もあるというのに、観覧席は大勢の人で賑わっていた。

 なんとか座れる場所はないかと探していると、風子が「あっ」と声を上げ、手をぶんぶんと振り回した。巾着を持ったままだったので、たまたま隣にいた哲宏にあたりそうになっていた。

「崇也センパイ! こっち!」

 手招きしているんだから、小走りにやってくるのが当たり前だろうに、男はのしのしとゆっくり歩いてきた。柄の悪いアロハシャツ。短パンから伸びる脛には、毛が生えていて、げえ、となった。

 男の動きがのんびりしているのには、理由があった。彼は小さな女の子と手を繋いでいた。綾斗と同い年くらいの、小学生の女の子。

 そういえば、妹を連れてくるって言ってたか。高校三年生ともなれば、保護者の要件は満たしていると、まあいえなくもない。

 ある程度の説明は、兄からされていたようだが、見知らぬ高校生に囲まれて、妹は萎縮していた。

あら可愛い。うちの妹も、これだけしおらしくしていればいいのにな。

 風子は妹と目を合わせようと姿勢を低くして、「汐梨しおりちゃん? あたし、風子っていうの。よろしくね」と、ごく当たり前のように自己紹介する。金髪男はハラハラと見守るだけだった。

 あんたが率先して仲介しないでどうする。

 苛立つ私を哲宏がなんとか押しとどめている状態だ。

 おずおずと顔を上げた汐梨ちゃんは、風子の姿を見て、パッと表情を輝かせた。

「ん?」

「お姫様だぁ……!」

 たぶん、かんざしが一役買っている。キラキラと輝いて、風子の装いの中でも特に目立っている。王冠モチーフも相まってか、小さい子にはお姫様のように見えるらしかった。

「可愛い! ね! お兄ちゃん、可愛いよね!」

 興奮した妹に、兄は弱かった。

「お、おう」

 そんなの、肯定するしかない。年の離れた妹相手には、金髪の見た目ヤンキー男も太刀打ちができない。

 そう思ってちょっとだけ微笑ましい気持ちになっていたんだけど、大きな勘違いだった。

 金髪男は、まんざらでもない様子で、風子にぽーっと見惚れている。

 わからない。ヤンキー男の好みが、まるでわからない。

 頭を抱える私をよそに、風子たちはなんとか座る場所をレジャーシートで確保した。座る場所だが、私は哲宏と風子を隣同士にすべく、自然な立ち回りを心がけた。

 結果として成功したが、逆サイドには、風子にべったりになってしまった汐梨ちゃんがいるため、一緒に行動せざるをえない兄の方までくっついてきてしまう。

 仕方ない。次の作戦だ。私は汐梨ちゃんと風子の両方と目を合わせる。

「ねえ、汐梨ちゃん、フーコ。お腹空いてない?」

「空いた!」

 元気に返事をしたのは、高校生の風子の方だ。汐梨ちゃんはもじもじしている。風子にはすぐに気を許し、哲宏にも緊張はしているものの、普通に話しかけたりしているのに、なぜか彼女は、私にだけ懐かない。

 かろうじて微かに頷いたのを見て取って、私はにっこり笑いかけた。

「じゃあ、買ってきてあげる。何食べたい?」

 たこ焼きだのお好み焼きだのかき氷だの、どう考えてもひとりで食べるには限界があるだろうに、風子は片っ端からお祭りっぽい食べ物を並べ立てた。そんな彼女を見て、汐梨ちゃんもおずおずと自分の希望を述べる。

「りんごあめ、ね。わかった。他にも適当に買ってくるから」

 視界の端で、哲宏が立ち上がりかけているのを捉える。私は手で制し、金髪男を見つめた。

「お兄さん。妹さんの分ですから、一緒に買いに行ってくれますよね?」

 汐梨ちゃんたちに向けていた笑顔とは、似て非なる表情を作る。

「ね?」

 再度重ねて言うと、金髪男は気圧されたように頷いた。哲宏が声をかけてくるが、「哲宏はフーコたちのこと、ちゃんと見てて」と頼んだあとは、まるっと無視をした。

「じゃあ、行ってくるね」

 声をかけてから振り返った風子は、面白くなさそうな顔をしていた。見ようによっては、私を睨んでいるようにも感じられる。

 でも、彼女は気づかない。自分の感情の理由もわからない。もしかしたら、揺り動いている自覚すらないかもしれない。

 それでいい。本人が気づかないうちに、私が風子を不幸にするものから、守ってあげる。

22話

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