断頭台の友よ(10)

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9話

 食堂に行くと、オズヴァルトがテーブルについていた。目の前のスープには、手がつけられた様子はない。

「おはよう、オズ」

「クレマン!」

 彼は悲壮な顔をクレマンに向けると、わずかにホッと肩から力を抜いた。すぐさま立ち上がり、小柄なクレマンの身体を抱き締める。クレマンの顔はちょうど、オズヴァルトの肩あたりに来る。挨拶の範疇を超えた力に、クレマンは彼の背中を優しく叩いて、緩めるように指示をした。

「ああ、すまない……君の顔を見たら、安心して」

 普段は血色がよく、薔薇色をした頬からは、色が失われている。

「まずは食事をしてほしい。君が普段食べているものには劣るかもしれないが、ブリジットの料理は美味いぞ」

 現王・アンリ三世の御代に移り変わるまで、サンソン家は困窮していた。祖父が爵位を買うために、それまで貯め込んでいた財産を放出したことに加え、先王が人殺しのサンソン一族を嫌っており、報酬の大部分を出し渋ったせいだった。

 クレマンの代になり、人の血を見るのが何よりの娯楽であると言ってはばからない現王に寵を受けるようになって、ようやく仕事に見合った報酬を得られるようになったが、身についた倹約する癖はそのままだ。地方の処刑人家系はサンソン家よりもさらにつましい暮らしをしていたので、ブリジットの作る料理も、安い食材を利用して腹を満たすことができるものである。

 男爵家とはいえ、秘密を守らなければならないサンソン家には、住み込みの使用人はいない。ブリジットが手ずからスープをよそってくれて、クレマンの前に置く。手早く黒パンを温め、そっと差し出した彼女は、自分の食事は後回しにする。友人同士の会話の邪魔をしないようにと、昨日使った布巾を集め、洗濯籠を手に外へ向かう。

「ブリジット。今日は寒いから、暖かくしていくんだよ」

 呼び止めると、彼女は小さく頷いた。春先に一番に咲く花のように、小さく可憐な微笑みを浮かべる。

 彼女の実家の親兄弟は、「愛想がない娘」「何を考えているかわからない子で」「顔だけはいいんですけどね、顔だけは」と、末娘のことを貶めた。ブリジットは、ずっと俯いていた。美しいのに卑屈な顔をした彼女が、下を向いているのが許せなかった。

 以来、クレマンは妻の実家とは最低限のやり取りしかしていない。王都の処刑人を世襲するサンソン家は、処刑人家系の中でも特別で、実家の人々は何かと無心してきたが、一切を無視した。その結果、ブリジットはようやく心を開き、信頼を寄せてくれるようになった。

 クレマンは愛する妻を見送ると、今度は大切な友人に向き合った。

11話

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