断頭台の友よ(27)

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26話

 オズヴァルトは、女性の話を聞き出すのに難儀しているようだった。標的にした女性は、オズヴァルトが考えていたよりも、もっとずっと、情に深い人であった。幸せな結婚をしていても、無惨に殺された元婚約者のことを頭から消したり、面白おかしく話すということはしない。真っ当な人間であることに、クレマンは軽い感動を覚えていた。

 イヴォンヌが殺されてから、すでに一ヶ月。捜査に進展がないことに、上司は早々に諦めている。迷宮入り間違いなしの首斬鬼にたった一人で捜査させられるクレマンを、彼らは同情的に見つめたが、願ったり叶ったりである。

 とはいえ、クレマンにできることはあまりにも少ない。オズヴァルトの聞き込みを手伝おうか。そもそも捜査をする義務があるのは自分で、対人捜査を彼に任せっぱなしの現状がよくないのはわかっているのだが、どう考えても、オズヴァルトよりもうまくやれるとは到底思えなかった。何よりも、オズヴァルトが「任せろ」と言っているのだと言い訳をして、クレマンは高等法院の資料を漁り、首斬鬼の被害者の共通点を見出そうとしたが、うまくはいっていない。

 寝不足の目を擦りつつ、クレマンは次の患者を呼びに行った。週に二回しか開かなくなってしまった診療所だ。村人たちはこぞってやってくる。そのうちの半分は、大したことのない症状で、さすがのクレマンも「舐めとけば治る」と、治療者にあるまじき台詞を吐き捨てたくなるのだった。

 入ってきた中年女性も、さして切羽詰まった症状はない。しけた顔をしているのは今に始まったことではないので、表情筋を緩めた陰のある顔のまま、クレマンは「いかがなさいましたか?」と質問する。

 すると女性は、口で言うよりも見てもらった方が早いとばかりに、自分の着ている衣服をたくし上げる。一応、礼儀として凝視することなく、クレマンは視線をそっと宙に向け、やり過ごす。むっちりぽっちゃりという可愛らしくも淫靡なものではなく、ぱつんぱつんに張り出した腹を指し、彼女は「痒くて痒くて、夜も眠れないのよ」と、心底困っているという声で訴えた。

 そこで初めて、クレマンは彼女の腹を見る。貴族女性相手の診察においては、医者であっても身体を見ることなどあってはならないということで、服を着たままどころか、手紙のやり取りだけで医者はもっともらしいことを言わなければならないという。それに比べれば、クレマンの患者たちは、みんな素直に腹や胸をさらけ出してくれるので、診察はやりやすい。

28話

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