断頭台の友よ(72)

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十字架 ライト文芸

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71話

 あの子は死体の第一発見者だ。些細なことから、事件が発覚することを恐れている?

 クレマンはオズヴァルトに目配せをした。彼はこちらの意図を汲んで、立ち上がる。

「それではこれで」

「えっ」

 こちらは別に、取引を行う義理はないのだと、冷たく見下ろす。表情を消した美形ほど、恐ろしい形相の人間もいない。考える隙も与えずに、相手はひれ伏し、何もかもを聞き入れたくなってしまうだろう。

 案の定、院長も慌てて行く手を阻み、「わかりました! あの子はそちらにお譲りいたしましょう。ですから、何とぞ寄付の件は……!」と、縋りついてくる。オズヴァルトは彼の手をさりげなく堂々と振り払うと、「そうですね。父に話はしてみましょう」と言った。

「ああ、ありがとうございます!」

 感極まっているかのような様子だが、オズヴァルトは何も確約していない。ただの口約束だ。父親に話をすると言っただけで、寄付金の件を撤回する確約はしていない。話をするのだって、おそらく彼は本当に実行するつもりはないだろう。

 院長は、これ以上オズヴァルトの機嫌を損ねたくはないと、すぐにクリスティンのところに案内してくれた。

「おい。おい、こっちだ」

 クリスティンと呼ばないのは、彼女の名前すら覚えていないからか。ぬいぐるみを抱き、一人でおとなしく遊んでいたクリスティンは、院長に呼びつけられて、躊躇した。見知らぬ人間が一緒にいるから、というわけではなさそうだ。彼女の視界には、まだオズヴァルトもクレマンも入っていない。純粋に、院長を怖がっている。

 すでに何かされているのではないか。クレマンは怒鳴っている男の首根っこを捕まえて揺さぶり問い詰めてやりたい気持ちになったが、今の自分は淑女の格好をしていることを思い出し、踏みとどまった。

 近くにやってきたクリスティンは、ようやくこちらに気がついた。働いている職員の中に、若い男はほとんどいない。特にオズヴァルトのような美形は、見たこともないだろう。もじもじしながらも、好奇心を隠せずに、見上げている。

 クレマンはしゃがみ込んで(スカートがみっともなくならないようにするのが大変だった)、クリスティンと目を合わせた。彼女は首を傾げたが、クレマンの目を見つめ、「あれ?」という顔になった。

 唇に微笑みを刻む。できうる限り優しく笑ったつもりだったが、反応はいまいちであった。

「あー、この方たちが、お前を引き取りたいと言っている」

 本当に? とオズヴァルトの方を見上げた。彼はクリスティンの頭を優しく撫でる。

 今日の今日で引き取りができるわけではないが、一緒に外に出たいと言うと、やはり院長は渋った。すかさずオズヴァルトが自らのポケットマネーをいくらか差し出す。懐に納めた院長は、にや下がった笑みを隠そうともせずに、少女の背中を押した。

73話

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