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<17話
エアコンから吹いてくる涼しい風が、汗でべたついた身体をいたわった。ベッドの上でくっついていても、不愉快ではない。
祥郎は飛鳥の髪の毛を一房ずつ手に取って、口づける。頭のてっぺんから爪先まで、飛鳥のすべてが愛おしくて、祥郎は自分の行動が恥ずかしいものだと理解はしていたが、やめられなかった。
「右手は卒業、だな」
ぽそりと零して、飛鳥の耳たぶを食む。ぽーっと祥郎にされるがままだった飛鳥は、「右手……?」と呟くと、一気に覚醒したように、祥郎に視線を向けた。
「ん?」
「あ、あの。先輩」
恥じらいに頬をほんのりと上気させた飛鳥は、言おうか言うまいか逡巡している。
「どうした?」
優しく促すと、彼は意を決して、祥郎の耳に手を添えて囁く。二人しかいないのに、内緒話の格好である。
「僕、本当は、左利きなんです」
と。
照れるような内容か、とか、そもそもそれは重要なことじゃないし、今更告白するようなことでもないわけで。
(天然か)
祥郎は、飛鳥の手首を捕まえた。
どうでもいいことを、照れながら告白する飛鳥は……ただひたすらに、可愛いだけだった。
「……もう一回、いい?」
祥郎の誘いに、飛鳥は二度、三度と目をぱちぱちと瞬かせると、鮮やかに微笑んで頷き、祥郎の首に、腕を絡ませた。
(おわり)
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