愛奴隷~Idol~(28)

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27話

 抵抗する気もなく身体を拭き清められてから、貴臣はパーティー会場へと一人で戻った。ふらふらとした足取りで、時折壁に寄りかかって休みながら。戻るのは憂鬱だったが、帰宅するにしても一度葉山か誰か、信頼のおけるスタッフに一言その旨を告げておかなければならない。

 なるべく昴とは顔を合わせたくない。いや、合わせる顔がない……尤もこちらが合わせようとしなくても、向こうから避けてくれるだろうけれど。貴臣は自嘲して頬を歪めた。

 会場は和やかな談笑ムードとなっていて、きょろきょろと貴臣は葉山を探し、周りから頭一つ分以上高い昴の姿が視界に入ってこないことに首を傾げた。戻ったのではないのだろうか。

 目当ての葉山はすぐに見つかった。どこ行ってたの、と彼は聞かなかった。その代わりに「大丈夫?」と問われて、この人は何を知っているのだろうと貴臣は身構えた。

「さっき神矢くんが、お腹痛くてトイレで唸ってたって言ってたけど……ああ、でも顔色悪いね。帰る?」

 昴は何も言わなかったのだ、と少しだけ安堵した。ええ、とか、はい、とか曖昧に頷いて貴臣は葉山に、昴の行方を尋ねた。そうすると葉山は溜息をついて、

「神矢くんも気分が悪いって帰っちゃったんだよね……」

 と言った。

 帰った。昴が。

 これでしばらく――一生、だろう――昴と会わなくても済むのだ。テレビや映画の中にいる昴を見ているだけで十分。昔と変わらない生活に戻るだけだ。

 そうすると俳優になった目的が消えてしまうということに、不意に貴臣は気が付いた。そうか。もう、やめてしまってもかまわないのか。俳優をやめてしまえば、現場で昴に会うかもしれないと怯えることもない。

「じゃあ、俺も帰りますわ」

「うん。……久賀くん」

 貴臣は歩みを止めて、葉山に振り返った。眼鏡と長い前髪のせいで表情が読めない。

「……なんでもないよ。気をつけて」

 貴臣は首を傾げたが、葉山のことを考えている場合でもないので、そのままそそくさと帰途についた。

29話

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