平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(17)

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16話

 何度かの挫折を経て、日高がようやく最初の一冊を読み終えたのは、二週間後のことだった。

読書家の親友ならば、一日どころか一時間で読了してしまうかもしれないが、初めてまじめに読書に取り組んだ日高にとっては、読了しただけで快挙といってもいいだろう。

 ここまでの道のりは、並大抵のことではなかった。幾度もの寝落ち、しおりの挟み忘れを繰り返した。さして多くはない登場人物が把握できずに、メモを取りながら読んだ。

 ようやく慣れて、最後の二十ページは一気に読み切った。そこまでの物語も、頭の中に蘇ってくるというのは、初めての体験だった。

 奇しくも、日高が選んだ文庫本は、家族のいない少年が主人公だった。

 物心ついたときから孤児院で暮らしていた彼が、小学校最後の夏休みに、自身のルーツを探るべくひとり旅をする。

 少年が出会うのは、優しい人ばかりではない。騙そうとしてくる悪い大人。困っているのをスルーして歩き続ける人の群れ。

現実の世界と同じだ。でも、親切に助けてくれる人、一緒に困難を歩んでくれる人もいた。

 日高にとっての早見のように。

 いつしか、主人公に自分自身を重ね合わせていた。結局、彼は家族を見つけられなかった。旅の目的からすれば、ハッピーエンドとは言いがたい。けれど、日高はこの結末でいいと思った。

 見つけたところで、主人公が幸せになれるとは限らない。子どもを捨てて、一度も姿を現さない親なんて、どう控えめに見積もってもクズだ。

 大切なのは、旅を通じて知り合った人たちとの絆。それから、少年自身の成長だ。

 もしも早見の傍を離れ、元の世界に戻ることになったとき、自分はどれくらい、成長しているだろうか。

 読書の余韻に茫然としていると、扉を叩かれた。こっそりと目元を拭って、日高は「はい!」と、元気さをアピールする。

「調子でも悪いのか? と思ったが……」

 心配そうな早見に、はっとして時計を見た。すでに昼の二時である。時間経過に気づいた途端、ぎゅるる、と腹が音を立てた。

「わーっ! ごめんなさい! お昼ご飯!」

 朝と昼は、冷凍食品や作り置きをなるべく消費せず、日高が軽食を用意するようになっていた。

独り暮らしのときは、なかなかやる気にならず、半額になった惣菜を買ってばかりだった。  

けれど、こちらに来てからは、早見が黙々と食べてくれるのを見るのが好きで、張り切っていた。

たまに視線に気づいて、黙っているのがよくないと思ったのか、「これが美味い。また作ってくれ」という感想まで述べてくれる。嬉しい気遣いである。

 慌ててキッチンに向かおうとした日高の手首を、早見が掴む。

18話

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