<<はじめから読む!
<23話
ポチは腕の中ですやすやと眠っている。ウサオはなかなか眠りにつくことができなかった。笹川が、あんなにもクールな美貌を誇る笹川が、彼よりも身体の大きなポチを抱いているのかと思うと、心がざわざわした。
こうして自分の腕にぎりぎり収まっている感じのするポチの寝顔を眺めていても、妙な気持ちは起こらない。大きな湯たんぽを抱えている気分だ。
笹川とポチが、セックスをする。想像しようとしたが、できなかった。ただのセックスじゃなく、悪戯後のお仕置きなんてことを聞いてしまうと、笹川とポチのSMプレイなどと考えてしまって、それから思考はまったく進まなくなる。
そうじゃなくて、とウサオは気持ちを切り替える。ポチの幼い喋りを聞いていて、不意に思ったのだ。ああ、だからか、と。
だから、ヒューマン・アニマルたちは世話になった、大好きなアニマル・ウォーカーの家族に、期間が終わっても一緒にいようと言われても、首を縦には降らないのだ。
ウサオはもともとが人間だから、対等な人間関係というのが身に沁みついている。笹川や高山によって保護されて、俊の家に厄介になっている身だが、それを引け目に感じてはいたが、だからと言って彼らが主人だとは思わない。
ところが、ポチたちヒューマン・アニマルはそうではない。対等な関係などそもそも存在しない世界しか知らない。愛情を与えてもらったとしても、それを正しく受け取ることができていないのではないだろうか。
笹川はポチのことを家族として――もしかしたら、恋人として――扱いたいと思っていても、ポチの中には家族という概念が存在しない。わからないのだ。最初から与えられていないのだから。
ウサオは俊に教えてもらった、一般的なヒューマン・アニマルの生み出される方法というのを思い出す。試験管の中に受精卵を入れて最初から命を生み出すというのはまだ技術が確立されていない。
だから少なくとも、ヒューマン・アニマルが生み出される過程において、子宮と卵子を提供する出産適齢期の女性の存在が不可欠なのだという。
脅迫されて嫌々、なのか、金目当てに自分から、なのかはわからない。精子は精子バンクで買うことができるから、男の存在は不要だ。自分自身の身体を切り売りする女たちは、しかし、産み落とした自分の子――獣の特徴を持った子供たち――に無関心だ。
母親、なんてポチにはきっと、わからないだろう。怪我をしたときに手当をしてくれるぬくもりも、水仕事に荒れた手を握りしめる感触も。ウサオは母がどんな人間だったのか、どこの誰なのかはまだ思い出すことができないが、経験していたことは、体感として思い出せる。
笹川とポチの心の溝を埋めるのは、後はもう本人たちがきちんと、心を通わせて話すことしか方法がない。腕の中のポチを見る。幸せそうな顔で涎まで垂らしている。
こんなに可愛い――というには少し語弊のあるサイズだが――ポチだから、ちゃんと幸せになってほしい。そう思って、ウサオもまた、目を閉じた。
>25話
コメント