二週間の恋人(12)

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

11話

 大沼湖畔の外周は、だいたい一周一四キロメートル、自転車で一時間強の行程だ。次第に照りつける太陽に、要の体力は削られていく。

「ほら、せんせ。あと三分の一くらいだから、頑張ろう?」

 本当ならとっくに一周走り切っているだろう俊平は、要を気遣って並走している。太腿がパンパンに張って、ペダルを踏む足がどんどんおぼつかなくなっていく。ふらついてきた要は、転ばないうちに、ブレーキをかけて足をついた。

 ぜえぜえと肩で息をしている要に、俊平はペットボトルの水を渡す。ハンドルを握っていただけなのに、握力もほぼ残っていなくて、要は一度、それを取り落とした。

 俊平は馬鹿にすることも呆れることもなかった。ペットボトルを拾い、蓋を開けた彼は、要の口元へとそのまま持っていった。

 自分で飲める、と強がる体力さえ残っていなかった。要はされるがままだった。ゆっくりと流れ込んでくる水を、要はごくごくと飲み干していく。

 自然と、目を閉じていた。そうすると、風のそよぐ音や、道路を走る車のエンジン音、鳥の声……様々な音が耳に届いた。

 もういらない、と言う前に、ペットボトルは離れていった。一瞬の戸惑いの後に、目を開けようとした。そのときだった。

 硬いボトルの口とは違う、柔らかな感触に、開けるに開けられなくなった。唇に残った水分を、吸い取られる。

 空気の流れを唇で感じて、要はようやく、目を開いた。俊平は自転車の近くに戻っていて、「もう行けますか?」と言った。彼は、要のことを見なかった。短く切りそろえられた髪の毛から、ちらりと見える耳だけが、不自然に赤かった。

 照れるなら、しなきゃいいのに。

 好きだ好きだと態度で示してきた俊平が、意味を込めた接触を図ってきたのは、初めてだった。

 恋人としての付き合いを了承してから、キスくらいは仕方がないと、要は覚悟していた。さすがにセックスを求められたら拒絶するが、二週間の思い出に、キスならば、と受け入れていた。セックスと違い、初めてだというわけでもないので。

 顔だけじゃなく、立ち居振る舞いもスマートな俊平だから、キスもスマートに済ませ、あまり経験の多くない要を、からかってくるだろうと思っていた。

 なのに、自分から触れたくせに、あんな初心な反応をされたら、こっちだって何を言っていいのかわからない。

 顔が熱いのは、日焼けしたせいだと要は思い込みたかった。

13話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました