孤独な竜はとこしえの緑に守られる(29)

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28話

「陛下。お茶はいかがですか?」

 眉間に皺を寄せて唸っているところに、明るい声がかけられた。彼が持つトレイの上からは、黒茶のいい香りが漂ってくる。ふと時計を見ると、午後の業務を始めてから、すでに二時間が経過している。休憩を入れるのもいいだろう。シルヴェステルが頷くと、ベリルはぱっと顔を輝かせた。

 ベリルは相変わらず、日に一度は執務室を訪れる。守るという言葉のニュアンスを微妙に変え、彼はシルヴェステルの健康状態を確認し、根を詰める前に休息を取るように促してくる。神出鬼没に現れて、ずっと執務室に居座るということがなくなった。

 いいことだ。だが、誰の入れ知恵なのかというところに、シルヴェステルは敏感である。

「お前が来てくれる時間がちょうどよくて助かる」

 直接問い詰めるのはさすがに可哀想で、思った以上に遠回しになった。ベリルは当然気づくはずもないが、シルヴェステルの望んだ回答を寄越す。

「ジョゼフが時間を教えてくれるので」

 ソファに並んで座り、差し出された硬いクッキーをバリバリと噛み砕いた。シルヴェステルの不機嫌さをよそに、ベリルは「わぁ」と、丈夫な歯に感心した声を上げる。やや離れたところでは、カミーユが真っ白な顔で目を逸らしていた。

 ジョゼフという男を、ベリル付きの侍従見習いに任じたのは、最終的には他でもないシルヴェステル自身だ。それで嫉妬の炎に身を焦がしているのだから、愚かなことこのうえない。

 城の炊事場で皿洗いをしていた男を、ベリルは自分の傍、いずれは政治に携われるようにと強く望んだ。愛する彼の願いならば、すべて叶えたいところだが、無教養な人間族を雑用以外で雇うなど、考えられない。

 しかもその人間は、自分の知らぬところで、ベリルと交友関係を結んでいた男だ。それを侍従にするなど、密通に等しい。猛反対したが、結局彼の言うことを受け入れたのは、熱心な説得に加え、カミーユの推薦もあったからだ。

 夜会の毒入り葡萄酒事件で、重要な証言をしたのがジョゼフだった。捜査中に会話をする中で、カミーユは彼の記憶力や注意力、貪欲な知識欲に舌を巻いた。

 仕方なく、ナーガとともにベリルを支える業務にあたることを認めた。もちろん、事前に呼び出して、直接脅している。カミーユに対しては、二度目ということもあり、冷静に話をしていたジョゼフだが、さすがに竜王相手ともなると、怯えの色を見せた。

 それでも彼は、耐えきった。

『ベリル様は、私の大切な友でございます。彼を裏切ることも、彼の大切な陛下を裏切ることもありません』

 跪き、声を震わせつつも、はっきりと宣言した。その目に嘘はないし、万が一破ったときには、惨たらしく殺されることさえ、覚悟している様子だった。

 なので、シルヴェステルは渋々許可を出した。後宮でひとり、退屈しているベリルの話し相手になればとも思うが、それでも気に入らないものは気に入らない。

30話

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