断頭台の友よ(89)

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88話

 マイユ邸に行くのはそういえば、久しぶりのような気がした。

 捜査のためにいくつもの金持ちの屋敷を訪れたし、何ならギヨタンとの会合のために城にまで呼ばれたが、オズヴァルトが暮らす館は、細部にまで金をつぎ込み手をかけた素晴らしいものである。

 手紙を出してから向かったので、親友は歓迎してくれた。茶や菓子をゆっくりと頂きながら、クレマンは今日の訪問理由を告げる。

「クリスティンがどうしているのか、気になって」

 オズヴァルトは口元に運んでいたティーカップをソーサーに戻した。すぐにでも会わせてくれるものだとばかり思っていたクレマンは、彼の反応に戸惑う。どうも、何かをごまかそうとしてうまい言い訳を考えているようにしか見えない。

「オズ?」

 重ねて名前を呼ぶと、はぐらかすのは得策ではないと判断したようだ。小さく溜息をついて、彼は「クリスティンは今、この家にはいない」と話した。

「じゃあ、一体どこに?」

 返ってきた答えに、クレマンはテーブルを拳で殴りそうになった。

 療育院。治療と養育を行う施設だ。しかし実態はその名にそぐわないことを、ある程度の身分にある人間ならば、誰もが知っていた。大商会の三男坊であるオズヴァルトが、知らないはずもない。

 そこは市井の医療施設からはさじを投げられた、もはや手の施しようのない病気や障害を持つ患者たちを集め、ひたすら死を待つだけの施設であった。療育院に詰めている医者は、何らかの理由で街ではやっていけなくなった者たちばかり。中には、患者に無許可で新薬を投入して死に至らしめたと噂される医者までいるという話だ。

「そんなところに、クリスティンを入院させるなんて……!」

 激怒するクレマンを、オズヴァルトは宥めようとする。

「落ち着いてくれ。仕方がなかったんだ」

 クリスティンはマイユ家にやってきてから、一気に知能の遅れが進んだ。片時もぬいぐるみを離そうとせず、無理に取り上げれば癇癪を起こし、奇声を発して抵抗する。優しく話しかけても、反応を示さない。経営する店で働かせようと思っていたマイユ家の人々は、特に夫人は失望した。これ以上、世話をしても利益はない。情のかけらもない、いたって商人らしい判断をした。

90話

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