エピローグ それでもやっぱりやめられない

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12-4話

 神崎! と後ろから声をかけられて、靖男は振り返った。そこにはやや疲れたような佇まいだったが、満面の笑みで手を振る千尋がいて、靖男も片手を挙げる。

「実験終わったのか?」

「なんとかね。ほんと、今回ばかりは家に帰れないまま死ぬんじゃないかと思った」

 千尋は真顔で冗談を言うタイプではないので、本当に大変だったのだろう。季節は十二月になり、恋人たちが浮かれる季節。靖男も付き合いたての千尋といちゃいちゃしたいところではあったが、千尋の新しい実験が始まり、なかなか結果も出ない待ちの体勢になってしまったせいで、デートをするという雰囲気でもなかった。

「クリスマス前に終わってよかったな」

「うん」

 へへ、と笑う千尋は可愛い。背が高い男前の彼が子供のように笑うと、そのギャップで靖男はまだまだ胸がときめく。クリスマスはサークルの独り者飲み会に二人で参加予定だ。対外的には付き合っていることを隠している。が、姉御にはなんとなくばれているようで、「あんたたち参加なの?」と言われた。その後は千尋の部屋で二人で過ごす予定だ。

「こんなに楽しみなクリスマス、子供のとき以来かも」

「初めて恋人と過ごすクリスマスだもんな」

「ん……」

 頬を染めているのは寒いせいかもしれないし、そうではないかもしれない。たぶん後者だ、と当たりをつけて、靖男は背伸びをして千尋の耳元に「これから遊びに行っていい?」と聞く。

 勿論、と、こころよく頷いた千尋の後について、部屋に上がり込む。すぐにでも抱きたいところだが、寒がりな千尋は暖房がしっかりと効き始めるまではコートを脱ごうとしない。

 身体が温まるまで暇だったのか、千尋は「そうだ、これ買ったんだ」と笑顔である物を見せた。靖男はその服を見て、目が点になる。

 千尋がじゃーん、と自分の身体にあてているのは、季節のコスプレの代表格、サンタ服をアレンジしたワンピースだった。丈長めの奴を探すのに苦労したんだ、と楽しそうに話す千尋に、靖男は溜息を禁じ得ない。想いが通じ合って男同士として身体を重ねることが可能になった今、女装する必要はなくなったのだが。

「女装してオナニーすること、もうないだんだから、いらなくない?」

「まぁ、一人ですることはないけどさ……」

 でも、と千尋は靖男に笑いかける。十二センチという身長差にも関わらず、千尋は靖男のツボを心得て、隙あらば上目遣いで見つめてこようとする。ベッドに腰かけた靖男の脚元に座り込んで、ベッドに頬杖をついて小首を傾げる。

「燃えるだろ? 女装した俺とするの」

 否定できなかった。普段しどろもどろになるのは恋愛経験の乏しい千尋の方なのだが、これは靖男の負けだ。けらけらと笑っている千尋に対して、靖男は「黙れよ」の意味でキスをしたのだった。

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